前立腺癌の被ばく低減

前立腺癌放射線治療のハイドロゲルスペーサー(SpaceOAR system®)による副作用低減

前立腺癌放射線治療の副作用について

前立腺癌の放射線治療では、前立腺の動きなどを考慮して、前立腺の周りに少し幅を持たせた範囲に放射線を照射します。そのため、前立腺の周りにある膀胱、直腸などの臓器の一部にも放射線が照射され副作用が起きることがあります。

放射線治療機器や技術の進歩により、副作用の頻度は減っていますが、一定の割合で起こってしまいます。特に問題となるのは、治療から時間が経ってから起こる(半年〜数年後)の直腸出血です。頻度は低いですが、内視鏡でのレーザー治療や重篤な場合には輸血や手術が必要になることもあります。

前立腺(下腹部矢状断面)

ハイドロゲルスペーサー(SpaceOAR system®)とは

前立腺と直腸は隣り合っているので、前立腺に照射すると、高線量の放射線が照射される範囲(高線量域)が直腸に重なってしまいます。

ハイドロゲルスペーサー(SpaceOAR system®)とは、前立腺と直腸の間にハイドロゲルを挿入するものです。ゲルの挿入により直腸が前立腺から遠ざかれば、高線量域が直腸に照射されるのを防ぎ、直腸の副作用を減らすことができます。

SpaceOAR system®はアメリカで開発され、日本では2018年6月に保険適応となりました。当院では日本で保険適応となる前の2017年4月から臨床試験として日本で初めて使用を開始していて、日本国内のどの施設よりも長期の使用経験があります。SpaceOAR system®手技を行うにはトレーニングを受け認定を得る必要がありますが、当科の医師が日本で第一号の認定を得ています。

ハイドロゲルスペーサー

SpaceOAR system®の挿入方法

  1. 肛門から超音波プローブを入れて超音波で位置を確認します。
  2. 経会陰的に前立腺と直腸の間に針を挿入します。
  3. 生理食塩水を注入して前立腺と直腸の間にスペースが開くことを確認します。生理食塩水を注入して前立腺と直腸の間にスペースが開くことを確認します。
  4. SpaceOAR system®に付け替えて、ハイドロゲルを注入して終了です。

入院で挿入手技を行う施設もありますが、当院では外来で行っています。局所麻酔と鎮静薬を使用するので、眠っている間に終わることが多いです。手技にかかる時間は準備時間も含めて1時間以内です。手技の後、目がしっかり覚めるまで休んでもらう時間を合わせても2時間程度で終わります。
当科には2021年1月現在6名の認定取得者がいるため、泌尿器科等に紹介する必要なく当科内で柔軟に手技の予定を組むことができます。

スペーサー挿入後

ハイドロゲルスペーサー挿入の合併症として、約10%程度の人に一時的な違和感や疼痛、便意などを感じることがありますが軽度なものが多く、数日以内で治まります。重篤な合併症が起きる可能性は低いです。

ハイドロゲルは約3ヶ月間安定してスペースを形成し、半年から1年で吸収され体外に排泄されます。一時的なもので、体内に一生残るものではありません。

MRI画像

SpaceOAR system®の効果

アメリカでの臨床試験の結果では、ハイドロゲル挿入により高線量が照射される直腸体積が12.4%→3.3%と減少し、軽度なものも含む直腸晩期副作用が9.2%→2%に低下、治療が必要となる直腸晩期副作用が 6%→0%に低下しました。また性機能が保持されている患者においては、ハイドロゲル挿入により治療後の性機能保持率が高い(治療3年後の性機能保持率が 38%→67%に上昇)との結果がでています。

SpaceOAR system®の適用

前立腺癌放射線治療を受ける患者全般が対象です。外照射、小線源治療(高線量率組織内照射:HDR、低線量密封小線源療法:LDR)のいずれの治療法でも使用可能です。前立腺と直腸間に強い癒着が認められたり、前立腺癌が前立腺背側の被膜外浸潤・直腸浸潤がある場合は使用ができません。